片言のロシヤ語

(80代男性)

昨年十月、私たち家族は、モンゴル出身のヤンジカ(一六歳の女の子)のホストファミリーを引き受けた。ヤンジカは、長い黒髪で、日本人によく似ていた。素直な明るい性格で、三人でいるとまるで孫と、爺婆であった。

しかし、問題は言葉である。ヤンジカは、英語とロシヤ語は話せるが、日本語が話せない。私たちは、日本語しか話せない。時々向かいに住む孫の聖に通訳を頼んだが、日常は片言の単語と身振り手振りでの会話であった。 

或る夕食時、身振り手振りで盛り上がる中、思わず片言のロシヤ語が私の口から飛び出した。すると、ヤンジカの弾んだロシヤ語が笑顔で返ってきた。六八年間使うことのなかったロシヤ語が、会話になった瞬間である。終戦後、樺太がソ連の占領下になった時、一五歳だった私は、引き上げるまでの三年間、労役の中で覚えた片言のロシヤ語であった。

(2014年2月9日発行つのぶえ掲載)